TRAILER

INTRODUCTION

私は死ぬまで生きているよ

17歳で複雑な家庭から逃げだしたあざみは、年の離れた編集者のキタジマさんの恋人になった。キタジマさんに釣り合う女になりたいと背伸びしても、彼は仕事優先で向き合ってくれない。さびしさをこじらせたあざみは、その後、誰とつきあってもキタジマさんのことが頭から離れない。そんな彼女の前に、子供のようにまっすぐに愛をぶつけるノダくんが現れた。同じ頃、愛憎半ばする感情を抱く母との再会と死を経験したあざみは、愛すること、生きることを見つめ直すのだった。

『アレノ』での監督デビュー以来、『海辺の生と死』『二十六夜待ち』やシリーズ前作『誰でもない恋人たちの風景vol.1 愛の小さな歴史』など、男と女の揺れ動く情愛を描き続けてきた越川道夫監督。19年には特別養子縁組を取り上げ、母性と親子の絆を問うヒューマンドラマ『夕陽のあと』を発表し、新境地を開拓した。「誰でもない恋人たちの風景vol.2」の本作では、孤独を埋め合わせるため性に奔放となるあざみを寄り添うように映し、ひとりの人間の心の移ろいを描く。

主人公のあざみを演じるのは、11年のデビュー作『ももいろそらを』でいたずらな女子高生を生き生きと演じ、一躍注目された小篠恵奈。映画、ドラマでキャリアを積み重ねてきた小篠が、本作で忘れられない恋に執着するヒロインのあざみに体当たりする。寝起きのようなむくんだ素顔を披露したり、夜の渋谷を泣きながらさまようゲリラ撮影にも挑戦。複雑な家庭環境に育ち、愛と誰かへ依存にすがりつく寂しがり屋のあざみを繊細に、大胆に演じた。

あざみを不器用に愛するノダくん役には、『SR サイタマノラッパー』シリーズのMC MIGHTY役で知られ、ドラマ、映画で活躍する実力派の奥野瑛太。本作でも難役のノダくん全身全霊で演じ、強い存在感を残す。別れたばかりのやさしい恋人、シンには『二十六夜待ち』でも越川監督と組んだ嶺豪一。あざみをそばに置くだけだったキタジマさんには『EUREKA』『ディアーディアー』の斉藤陽一郎が。あざみが軽蔑する強烈な母には、ベテランの片岡礼子と、日本映画界を支える名バイプレイヤーが集まった。音楽はvol.1に引き続き、斉藤友秋がプロデュースする。

恋の失敗を引きずり、周囲も自分も傷つけてきたあざみ。愛の歴史を変えるあざみの小さな決断に、心が満たされる愛と再生の物語。

INTRODUCTION

私は死ぬまで生きているよ

17歳で複雑な家庭から逃げだしたあざみは、年の離れた編集者のキタジマさんの恋人になった。キタジマさんに釣り合う女になりたいと背伸びしても、彼は仕事優先で向き合ってくれない。さびしさをこじらせたあざみは、その後、誰とつきあってもキタジマさんのことが頭から離れない。そんな彼女の前に、子供のようにまっすぐに愛をぶつけるノダくんが現れた。同じ頃、愛憎半ばする感情を抱く母との再会と死を経験したあざみは、愛すること、生きることを見つめ直すのだった。

『アレノ』での監督デビュー以来、『海辺の生と死』『二十六夜待ち』やシリーズ前作『誰でもない恋人たちの風景vol.1 愛の小さな歴史』など、男と女の揺れ動く情愛を描き続けてきた越川道夫監督。19年には特別養子縁組を取り上げ、母性と親子の絆を問うヒューマンドラマ『夕陽のあと』を発表し、新境地を開拓した。「誰でもない恋人たちの風景vol.2」の本作では、孤独を埋め合わせるため性に奔放となるあざみを寄り添うように映し、ひとりの人間の心の移ろいを描く。

主人公のあざみを演じるのは、11年のデビュー作『ももいろそらを』でいたずらな女子高生を生き生きと演じ、一躍注目された小篠恵奈。映画、ドラマでキャリアを積み重ねてきた小篠が、本作で忘れられない恋に執着するヒロインのあざみに体当たりする。寝起きのようなむくんだ素顔を披露したり、夜の渋谷を泣きながらさまようゲリラ撮影にも挑戦。複雑な家庭環境に育ち、愛と誰かへ依存にすがりつく寂しがり屋のあざみを繊細に、大胆に演じた。

あざみを不器用に愛するノダくん役には、『SR サイタマノラッパー』シリーズのMC MIGHTY役で知られ、ドラマ、映画で活躍する実力派の奥野瑛太。本作でも難役のノダくん全身全霊で演じ、強い存在感を残す。別れたばかりのやさしい恋人、シンには『二十六夜待ち』でも越川監督と組んだ嶺豪一。あざみをそばに置くだけだったキタジマさんには『EUREKA』『ディアーディアー』の斉藤陽一郎が。あざみが軽蔑する強烈な母には、ベテランの片岡礼子と、日本映画界を支える名バイプレイヤーが集まった。音楽はvol.1に引き続き、斉藤友秋がプロデュースする。

恋の失敗を引きずり、周囲も自分も傷つけてきたあざみ。愛の歴史を変えるあざみの小さな決断に、心が満たされる愛と再生の物語。

STORY

あざみ(小篠恵奈)は恋人のシン(嶺豪一)と別れ、バイトもクビになった。各駅停車を乗り継いで、海沿いの町に暮らすマミさんを訪ねる。17歳で家出して、劇団に入ったあざみをかわいがってくれた憧れの先輩。久し振りに会うマミさんは、作家志望の恋人を支えるために、夜の女になっていた。

マミさんと出会った頃。あざみの恋人は倍近く歳の離れたキタジマさん(斉藤陽一郎)だった。1人で出版社を経営し、いつも仕事に追われている。あざみは仕事優先の彼に、片思いのような空しさを募らせていた。知らない町のビジネスホテルで時間を持て余し、キタジマさんに電話をかけながらあざみは眠りに落ちていく。

東京へ戻った。寂しさでパニックになり、あざみはシンを呼び出して体を激しくむさぼる。彼はそんな心を見透かし、「いない人のことを考えている」とホテルの部屋を出て行った。

新しいバイトが始まる。前科者でバツ2のリーダーと、あざみを意識しすぎて挙動不審になるノダくん(奥野瑛太)の3人1組で、毎日、ビルの清掃に向かう。

あざみの母親(片岡礼子)は、男と別れては自殺未遂を繰り返す激情の女だ。あざみと兄は幼い頃から死と愛を行き来する母に振り回されてきた。懲りずに入院騒ぎを起こした母を見舞い、あざみは気が重くなる。母は死ぬほど男を好きになれるのに、自分は……。

あざみはノダくんと初めてセックスをする。ぎこちない彼に抱かれながら、キタジマさんとの思い出に耽るあざみ。「いない人のことを思わないで」ノダくんは暴れ出した。「あざみさんの役に立ちたい」と子供のように泣く純粋な彼は、あざみには重たすぎる。

母の葬儀が終わり、夢にキタジマさんが現れた。冷たい海に向かう彼と、泣きじゃくりながら引き留める自分。なにかの予兆のような夢だった。過去の恋に執着していたあざみに、変化の時が近づく。

CAST

あざみ|小篠恵奈

KOSHINO Ena

1993年11月24日生まれ、東京都出身。11年に東京国際映画祭「日本映画・ある視点」部門作品賞の『ももいろそらを』(小林啓一監督)でデビュー。その後、タナダユキ監督作『ふがいない僕は空を見た』(12)や奥田瑛二監督作『今日子と修一の場合』(13)、豊島圭介監督作『花宵道中』(14)などで強い印象を残す。初主演作は『3泊4日、5時の鐘』(15)。現在、三澤拓哉監督『ある殺人、落葉の頃に』が公開待機中。

ノダくん|奥野瑛太

OKUNO Eita

1986年2月10日生まれ、北海道出身。日本大学芸術学部映画学科在学中からインディペンデント映画や舞台に出演。入江悠監督の出世作『SR サイタマノラッパー』(08)のMC MIGHTY役で注目され、同シリーズ3作目『ロードサイドの逃亡者』(12)で初主演。朝の連続ドラマ小説「エール」出演中。主な出演作に『凪待ち』『タロウのバカ』『アルキメデスの大戦』(共に19)など。公開待機作「スパイの妻」「太陽の子」『きみの瞳が問いかけている』などがある。

ノダくん|奥野瑛太

OKUNO Eita

1986年2月10日生まれ、北海道出身。日本大学芸術学部映画学科在学中からインディペンデント映画や舞台に出演。入江悠監督の出世作『SR サイタマノラッパー』(08)のMC MIGHTY役で注目され、同シリーズ3作目『ロードサイドの逃亡者』(12)で初主演。朝の連続ドラマ小説「エール」出演中。主な出演作に『凪待ち』『タロウのバカ』『アルキメデスの大戦』(共に19)など。公開待機作「スパイの妻」「太陽の子」『きみの瞳が問いかけている』などがある。

シン|嶺豪一

Mine Goichi

1989年7月17日生まれ、熊本県出身。多摩美術大学映像演劇学科卒業。自ら監督、脚本、主演を務めた『故郷の詩』(12)で東京学生映画祭でグランプリと観客賞を、第34回PFFにて審査員特別賞を受賞。主な出演作に『無限ファンデーション』(17)、『菊とギロチン』(18)など。越川監督作『二十六夜待』(17)にも出演している。20年のコロナによる緊急事態宣言下には、在宅映画製作企画に挑戦し、iPhoneで撮影した『のぞく』をオンラインで発表した。

キタジマさん|斉藤陽一郎

Saito Yoichiro

1970年11月9日生まれ、北海道出身。94年、篠原哲雄監督Vシネマ「YOUNG&FINE」のオーディションで主演デビュー。青山真治監督作品『Helpless』(96)で映画デビューし、以後『EUREKA』(01)、『サッド ヴァケイション』(07)などに出演する。初主演作は同監督『軒下のならず者みたいに』(03)。主な出演作に『エルネスト』(17)、『楽園』(19)など。20年は『子供たちをよろしく』『mellow』が公開された。

キタジマさん|斉藤陽一郎

Saito Yoichiro

1970年11月9日生まれ、北海道出身。94年、篠原哲雄監督Vシネマ「YOUNG&FINE」のオーディションで主演デビュー。青山真治監督作品『Helpless』(96)で映画デビューし、以後『EUREKA』(01)、『サッド ヴァケイション』(07)などに出演する。初主演作は同監督『軒下のならず者みたいに』(03)。主な出演作に『エルネスト』(17)、『楽園』(19)など。20年は『子供たちをよろしく』『mellow』が公開された。

兄(ケンゴ)|遊屋慎太郎

Yuya Shintaro

1992年5月31日生まれ、静岡県出身。モデル活動開始と同時に、越川監督作『アレノ』(15)でスクリーンデビュー。以降、映画『SCOOP!』(16)、『帝一の國』(17)などに出演するほか、劇団ハイバイの舞台にも出演している。公開待機作に『ジオラマボーイ・パノラマガール』(瀬田なつき監督)、『佐々木、イン、マイマイン』(内山拓也監督)がある。

あざみの母|片岡礼子

Kataoka Reiko

1971年12月20日生まれ、愛媛県出身。93年に橋口亮輔監督作『二十歳の微熱』でデビュー。94年の出演作『愛の新世界』で注目を集める。主な出演作に『ハッシュ!』(01)、『ぐるりのこと。』(08)、『榎田貿易堂』(18)、『愛がなんだ』『楽園』(19)など多数。現在『とんかつDJアゲ太郎』『タイトル、拒絶』が公開待機中。

あざみの母|片岡礼子

Kataoka Reiko

1971年12月20日生まれ、愛媛県出身。93年に橋口亮輔監督作『二十歳の微熱』でデビュー。94年の出演作『愛の新世界』で注目を集める。主な出演作に『ハッシュ!』(01)、『ぐるりのこと。』(08)、『榎田貿易堂』(18)、『愛がなんだ』『楽園』(19)など多数。現在『とんかつDJアゲ太郎』『タイトル、拒絶』が公開待機中。

STAFF

監督・脚本|越川道夫

Koshikawa Michio

1965年生まれ、静岡県出身。助監督、劇場勤務、演劇活動、配給会社シネマ・キャッツ勤務を経て、1997年に映画製作・配給会社スローラーナーを設立。ラース・フォン・トリアー監督『イディオッツ』(98)、アレクサンドル・ソクーロフ監督『太陽』(05)などの話題作の宣伝・配給を手がける。また、数多くの映画賞を受賞した熊切和嘉監督『海炭市叙景』(10)、ヤン・ヨンヒ監督『かぞくのくに』(12)などをプロデュース。2015年、エミール・ゾラの『テレーズ・ラカン』を現代日本を舞台に翻案した『アレノ』で劇場長編映画監督デビュー。2017年には作家・島尾敏雄と島尾ミホの出会いを描いた『海辺の生と死』、居場所をなくした少女と少年のロードムービー『月子』、佐伯一麦の小説を原作とした『二十六夜待ち』の3本の監督作品が立て続けに公開された。2019年には『誰でもない恋人たちの風景vol.1 愛の小さな歴史』と『夕陽のあと』を発表。

主なプロデュース作品|

『路地へ 中上健次の残したフィルム』(01)『青い車』(04)『幽閉者 テロリスト』(07)『赤い文化住宅の初子』(07)『俺たちに明日はないッス』(08)『砂の影』(08)『私は猫ストーカー』(09)『ゲゲゲの女房』(10)『森崎書店の日々』(10)『海炭市叙景』(10)『吉祥寺の朝日奈くん』(11)『フォーゴットン・ドリームス』(11)『惑星のかけら』(11)『夕闇ダリア』(11)『かぞくのくに』(12)『夏の終り』(13)『楽隊のうさぎ』(13)『ドライブイン蒲生』(14)『白河夜船』(15)『海のふた』(15)『無限ファンデーション』(19)

監督・脚本作品|

2015 『アレノ』 脚本は佐藤有紀と共作 出演:山田真歩、渋川清彦、川口覚
2017 『海辺の生と死』 出演:満島ひかり、永山絢斗
2017 『月子』 出演:三浦透子、井之脇海
2017 『二十六夜待ち』 出演:井浦新、黒川芽以
2019 『夕陽のあと』(監督のみ/脚本:嶋田うれ葉) 出演:貫地谷しほり、山田真歩
2019 『愛の小さな歴史 誰でもない恋人たちの風景vol.1』 出演:瀬戸かほ、宇野祥平、深水元基

音楽プロデューサー|斉藤友秋

Saito Tomoaki

1978年生まれ、埼玉県出身。中学生の頃に弾き始めたエレキギターの影響からロックに傾倒する。03年より京都に居を移し、ギターとチェロによるデュオ「細胞文学」を結成。静と動から生まれる「間」を基調とした音楽性が、音楽界だけにとどまらず多方面から支持を得る。2009年のスペイン旅行を機に再び関東に居を戻し、クラシックギターによる作曲に着手、独学による作曲法を用いて自身の新たな領域への創作に挑戦している。2015年に、考えることをテーマにした、声とギターによる作品「考える日」を発表。シリーズ前作『愛の小さな歴史 誰でもない恋人たちの風景vol.1』(19)でも音楽を担当した。

INTERVIEW

「あざみさんのこと」越川道夫監督・小篠恵奈 対談

Q: 越川監督と小篠さんの出会いから、本作へのキャスティングに至った経緯を教えてください。

越川: 3、4年前に、小篠さんのマネージャーさんから「うちの俳優と会ってほしい」とお話をいただきました。彼女のことは、僕の助監督からも評判を聞いていて、実際に会ってみると17歳でデビューして女優の仕事を続けてきたけれど、今後も女優としてやっていけるかと不安で押しつぶされそうな感じがしました。僕にもこんな風に必死な時代があったなと懐かしくなって、その後、作品にキャスティングしたんです。
小篠: その撮影前に、監督のワークショップに参加したら、『愛の小さな歴史』で主演した瀬戸かほさんのお芝居がすごすぎて、「なぜ瀬戸さんにできて私にできないのか」と、落ち込んでしまって(笑)。
越川: でも、実際に撮影に入るとみるみる顔が変わり、僕の考えを感じ取ってくれるほどまでになった。だから、今回、『あざみさんのこと』の企画が持ち上がったときに、小篠さんにならできると声を掛けたんです。

Q: 『あざみさんのこと』は構想と完成作がかなり違うと小篠さんがおっしゃっていました。当初はどんな企画だったのですか?

越川: そうだっけ?
小篠: そうですよ! 『fleabagフリーバッグ』(※ 女優のフィービー・ウォーラー=ブリッジが脚本を書いたひとり芝居が元になったBBCドラマで、イギリスに暮らす若い女性の不安定さを描いたブラックコメディ。ウォーラー=ブリッジはこの成功で『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』の脚本に抜擢された)みたいな肉食系女子の話になると聞いていたのですが、こんなに破滅的な話なのかな? と驚いたんです。確かにドラマ自体、主人公の無軌道な欲求が、ある種の自傷行為のようだし、ちょっとした優しさに傷つくとか、主人公の心理が手に取るようにわかって胸が苦しくなったことは確かですけれど。
越川: 自傷行為みたいにセックスに走る瞬間は、男女に関わらずあることだと思うんです。仕事も人間関係も恋愛もうまくいかず、腰が定まらないでフラフラしているだけでなく、死ぬことばかり考えてしまう…危なっかしいんだよね。そんなひとりの女性をどうやって生き延びさせればいいのかと考えていたら、『あざみさんのこと』が浮かんできたんです。
小篠: 私も撮影の時が人生でいちばん悩んでいて、仕事は大好きだけど逃げたい気持ちもあって。でも、他にやりたいことはない。暗闇で途方に暮れていた時期に越川監督と出会い、主演映画も撮っていただいて……。撮影が終わって感じたのは、監督が私を生きる方向に導いてくれていたんだなということでした。女優を続けようと自信を持てたというよりも、あざみさんと一緒で、「生きていかなきゃね」と前向きになりました。

Q: なかなかシリアスな現場だったようですね。

越川: いや、そうでもないですよ、こぢんまりとした撮影隊だったので笑いが絶えなかったし。小篠さんは斉藤さんや片岡さん、奥野くん、嶺くんと共演して、いっぱいボコボコにされていましたね(笑)。
小篠: 母親役の片岡さんには「もっと本気で来ていいよ、死なないから。そんな簡単にケガしたりしないから遠慮しないで。楽しくやっていいんだよ」と励まされました。飲み屋で話しかけてくる年輩の男性を演じた鈴木晋介さんには、ご迷惑をおかけしてしまいました。泣かないという気持ちとセリフを言わなきゃという気持ちがこんがらがって、脚本通りにしゃべれなくなったんですが、鈴木さんは何度でも付き合ってくれて……。スタッフのみなさんも私ができるまで、のんびりと待ってくれるんです。本当にありがたかったです。
越川: 先輩たちに助けてもらったことは、いつか小篠も後輩に伝えていけばいいんだよ。

Q: 3人の男性とぶつかり合うあざみさんを演じた小篠さんからみて、いちばん魅力的だった男性キャラクターは誰ですか?

小篠: それはもう、キタジマさんですね。キタジマさんとの撮影が終了したら、クランクアップしたような気分になったほどです(笑)。
越川: しばらくキタジマロスになってたもんなあ(笑)。
小篠: キタジマさん役の斉藤さんは普段は陽気な方ですが、キタジマさんになると亡霊のように消えそうな雰囲気に変わるんです。私が全力でぶつかっていっても、スカッスカッと通り抜けていってしまう。何とかしてキタジマさんを振り向かせたいと空回りしていたあざみさんの焦燥感が理解できました。それくらいキタジマさんにハマったので、正反対のノダくんを好きになれるだろうかと悩みましたね。愛にはいろんな種類があって、ノダくんに抱く温かい感情は母性愛、キタジマさんには恋愛の愛、かなと分けていいんだと気づいたら楽になりました。あざみさんと同年代のシンくんは複雑なことを考えなくてもぶつかり合える関係ですね。彼はあざみと別れても、いい恋人と出会い、幸せな結婚をするだろうなと感じます。

Q: ノダくんを演じた奥野さんのお芝居は衝撃的でした。彼のキャスティングについて教えてください。

越川: あの役は奥野くんしかいなかった。彼は『SR サイタマノラッパー』(09/入江悠監督)のMC MIGHTYのイメージが強くて、やんちゃな役が続いているから、違うことを一緒に試したかった。本人も障害のある友人たちとの交流もあると聞いていたし、彼らと自分たちが考え方のシステムが違うだけと知っている。撮影中もカットがかかっても自分の芝居に納得できてなくて、ずっと難しいと言っていたのを覚えています。
小篠: 奥野さんとは打ち合わせなしで撮影したのですが、すべてのことに意識が向いていて、私の顔が髪で隠れたら自然に髪を直してくれたり、ベッドに倒れ込むのも痛くないように必ず支えてくれる。難しいシーンの撮影でしたが、不安は全くなくて、奥野さんに任せていれば大丈夫だからと安心して芝居に打ち込めました。

Q: あざみさんの迷走には共感したり、身につまされる観客が多いと思います。

越川: 脚本の素となったある女性の日記に、僕自身や知り合いのエピソードを入れながら作っていったので、リアルに感じられるのかもしれません。自分を含めて、人が生きている姿って愚かで愛おしいと思います。そのおかしみを役者たちが追求しながら芝居の中で有機的な関係が生まれ、作品が予期せぬ方向に伸びていく。小篠さんも共演者とぶつかり合って悩んで、あざみさんを自力で掴んだ。撮影が終わったときに、小篠さんが「あざみさんも自分も生きていける」と確信できたなら、僕はもう満足です。

2020年10月1日 インタビュー・構成: 落合有紀

THEATER

エリア 都市 劇場名 公開日
関東 新宿区 K's cinema 上映終了
  横浜市 シネマ・ジャック&ベティ 2021/1/30〜
中部北陸 名古屋市 名古屋シネマテーク 2020/11/14〜
関西 大阪市 第七藝術劇場 2020/12/5〜
  京都市 京都みなみ会館 2020/12/4〜

「あざみさんのこと」誰でもない恋人たちの風景vol.2
2020年|日本|113分|16:9|5.1CH|カラー|DCP